石川一雄 不当逮捕から60年を迎えて   5・23メッセージ


 まず最初に、昨年9月から皆様方にお願い致しました裁判所に「鑑定人尋問を求める緊急署名」が50万筆を超えて頂きました事に心から感謝申しあげます。大きな力を頂きました。
 さて、別件逮捕から今日は60年を迎え、昨年8月、弁護団が裁判所に11人の鑑定人尋問およびインク鑑定の請求を行い、署名活動等の闘いの中で、再審闘争の機運も盛り上がる中ではありますが、まだまだ、先行きが不透明なことは、私自身が一番よく知りつつ、今は兎も角、多くの支援者各位にご心配、ご迷惑をおかけしていることに対し、「申し訳ない」では相済まない気持ちでいます。当時如何に自分が社会的に無知であったか、それに付け込んだ3人の取調官に対し、今も許せない気持ちがあっても、3人とも、もうこの世にはなく、結果的に私は一層苦しんでいるのは事実です。
 しかし、弁護団が請求している鑑定人尋問とインク資料の鑑定が実現し、弁護側から提出された全証拠を裁判官が綿密に精査して頂ければ、司法の名に()じない判断が出されるものと固く信じております。
 一方私は、先日、再審開始決定が出された袴田事件で、裁判所から「ねつ造の疑い」とまで断じられた「5点の衣類」もさる事乍ら、一番釈然としないのは、家宅捜索時に袴田さんの自宅から「ズボンの切れ端」が発見された点です。何故なら、私も度々ズボンの裾を詰めてもらい、その時、ズボンの切れ端を渡されますが、家に持ち帰ったとしても、直ぐに捨ててしまう経験から、袴田さんもそのようにしていたのではないかと、思っていたからです。したがって、捜査官が袴田さんを犯人にすべく袴田さんの家を家宅捜索した際に箪笥の中から発見したかの如く、捏造したのでないかと思っています。狭山事件で3回目の家宅捜索で発見された万年筆も同じ構造だと言えます。
 過去の例で言うと、松山事件がそうでした。斎藤幸雄さんが犯人とされ、「死刑確定囚」でした。斎藤さん宅から押収された布団の襟当に付着した多量の血痕が決め手となって死刑判決になったのです。再審裁判で、ジャンパーなどに血痕がないにもかかわらず、何故、襟当に血痕がついていたのかを疑問に感じた裁判官が不審に思い、押収後の鑑識課員の鑑定書を証拠開示を勧告して提出させたのですが、その写真には血痕が存在せず、他の新証拠とあわせて精査した結果、再審開始決定となり、斎藤さんは無罪を勝ち取ったのです。後に東京拘置所で、斎藤さんのお母さん(斎藤ヒデさん)、別の日に妹さんが私の所に面会に来られた際にそのように話しておられたのを今でも思い出します。
 私が死刑囚として東京拘置所に収監されていた時も、他にも冤罪者がいたかもしれません。しかし、再審請求するには、多くの労力(時間、金)がかかるだけでなく、家族にもさまざまに負担がかかることを考えて、再審請求を断念せざるを得ない人たちがいたのではないか、と思っています。
 何れにせよ取調過程において如何なる事情があっても、一旦自白すればそれを覆すことは容易ではないことを身をもって知っております。再審が開始されるのはラクダが針の穴を通るより難しいとされている今の法制度で、とりわけ問題なのは、再審裁判で、全証拠の開示は元より、検察における上訴(特別抗告、異議申し立て)ができないような法改正を早急にしていけなければならないと痛切に思います。
 狭山事件も裁判所の公正な判断を求め、最終段階を迎えている現在、何としても弁護団が求める鑑定人尋問およびインク鑑定を実現させるの一言に尽きますので、全国の支援者皆さん方に、もうひと踏ん張りのご協力を賜りたく、私の心からのお願いを申し上げてご挨拶といたします。

2023年5月23日

                                石川 一雄

全国の支援者各位