近 況

 狭山には厳しい冬が続いている。狭山事件は、他の冤罪事件とは異なった側面を持っている。冤罪を糺し、雪冤することと、部落差別を糾弾する闘いだ。狭山事件の犯人とされた石川一雄は、被差別部落に生まれ、差別の結果貧しくて、教育を受ける権利も奪われた。

 日本国憲法第26条第1項で、「すべて国民はひとしく教育を受ける権利を有する」と定められ、第2項で「義務教育の無償化」について規定している。この法律は1946年に公布され、1947年に施行された。
石川は1939年生まれなので、8歳の時には法律が定められていたのだ。何か事件が起きれば、その近くにある被差別部落が、集中見込み捜査をされたという記憶や、差別の実態が各地にあったのではないか。私が生まれた徳島の被差別部落でもそうだった。

 7月にNHKEテレで金聖雄監督の 「ひで子と早智子 闘いの歳月~再審を求めて~袴田事件・狭山事件」が2回放映された。60分の時間内に、2つの冤罪事件をまとめることは難しかったと思う。特に狭山事件では冤罪事件と、部落差別は切り離せない。家族の視点からの内容とはいえ、私自身の狭山闘争へのきっかけや、石川への思いは、「えん罪事件」だけでは語れない。その真ん中に部落問題があった。
だからこそ、狭山事件を映画や、テレビ等・・・・・マスコミで取り上げる難しさがあるだろう。金監督はそのような中で冤罪3部作「SAYAMA みえない手錠をはずすまで(狭山事件)」「夢の間の世の中(袴田事件)」「獄友 (袴田事件、足利事件、布川事件、狭山事件)」を撮った。本当に感謝している。

 別件逮捕された当時、殆ど文字を知らなかった石川が、獄中で正義感ある看守さんに出会い、石川の無実を信じた看守さんから「無実を訴えるには、文字を覚え、多くの人に真実を伝えることが大事だ」と石川に文字を教えてくれた。そのおかげで文字を取り戻すことができた。石川は「仕事はどんなにむつかしくても、3か月か半年あれば覚えられたが、文字はそういうわけにはいかなかった」と言う。文字を取り戻した石川の、「冤罪を晴らす、文字を力にして真実を知らせる」という闘い、苦闘があったからこそ、大きなうねりとなり、闘いが広がっていったのだろう。そこには、運動団体の力があり、その中で多くの差別された人たちが、自分自身の、生い立ちや、苦悩、闘いと重ね合わせ、石川を息子、兄弟、親、吾が事として、とらえた人たちの姿が浮かぶ。

 石川が一番大事に思っていること、子どもたちに伝えたいことは「一生懸命勉強をしてほしい、石川一雄を二度と出さないでほしい」ということだったように思う。
 差別から逃げたいと思っていた私には「差別から逃げるな!逃げても差別はなくならない!差別をなくす闘いに立ち上がれ!」との石川のメッセージに奮い立たされた。50年位前は、部落問題はタブー視されていたように思うが、自分自身を振り返ると、何か事あるごとに部落問題は姿をあらわにし、真正面から差別発言や差別事象にさらされた。狭山に出会い、「もう逃げない」と自分自身に誓ってから、差別は無くなったわけではないが、追いかけてこなくなった。
私にとって狭山の闘いは、人間解放の闘いだった。

10月4日、神奈川の石山さんからお葉書が届いた。
絹子さんは82歳になられたそうだ。「2020年508号の狭山パンフレットの2~3ページの二人の写真と記事を拝見してお元気な姿に私もにっこり。~一日一日を大事に生きていく姿と、今年こそ!の強い信念と意思が原動力のお二人に生きる力を頂いています。~再審を勝ち取るまでは、小さな応援ですが、せいいっぱい続けます。どうか風邪をひかぬように」(一部抜粋)と書かれていた。

 
 おはがきをくださった石山絹子さんと、かぼちゃ・栗を送ってくださった
シスター・ミサイさん(2017年7月10日の高裁前アピールの日に) 

絹子さんは、「体重30キロを目指す」という闘病生活を続けながら、このように温かい思いをいっぱい伝えてくださった。お二人になかなかお会いできないけれど、どうかお体大切にお過ごしください。

 10月に入り、お手紙、寄せ書き、柿、栗、カボチャ、昆布等、多くの人から送って頂いた。なかなか出かけられない生活のなかで、心配してくださっている皆さんの温かい気持ちがいっぱい伝わる。
何度も思う。
狭山の闘いは厳しい。しかし、闘う人達は温かい。
この闘いと、温かさが司法の厚い壁を打ち破るだろう。

 10月2日、「埼玉県南・石川一雄さんを支援する会」から署名90筆が届いた。

 「狭山事件の再審を実現しよう市民のつどいin 関西実行委員会」からお手紙と2020年2月24日の「第4回狭山事件の再審を実現しよう市民のつどいin関西」の報告集「つながりをちからに」が届いた。構成も内容もすばらしく、何度も読み返した。今、目が悪くて文字が読みづらくなっている石川が虫メガネを手に最後まで読んでいた。(編集・発行 狭山事件の再審を実現しよう市民のつどいin関西 実行委員会 500円 連絡先 〒653-0004 神戸市長田区四番町3丁目4-32 ℡ 090-3624-8270)
お手紙には「第5回市民のつどいは、2021年1月31日の午後、大阪市北区民センターホールで開催の準備に入った」と書かれ、「石川さんたちはビデオメッセージでお願いするつもりです」とあった。

 いまコロナ禍のなかで、何時まで影響が続くかわからないが、心配しながらも思考停止にならないようにと思っている。コロナをあおりながら、Gotoキャンペーンを押し進める経済第一主義をとる国家権力が、今度は学問の自由にまで手を突っ込んできている。このようなことが忖度政治となり、ますます、格差拡大、差別の増幅、冤罪を許す社会につながっていく恐怖を感じる。だからこそ、おかしいことに声をあげていくことが私たちのできることだと思う。

愛犬の散歩中に真っ白の曼殊沙華の花に出会った。

石川は81歳で糖尿病を抱えている        
石川にとって生き抜くことも闘いだ
何としても生きて冤罪を晴らす
強い思いで、元気に生き
闘いの日々を送っている